大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(ネ)4150号 判決

京都市下京区西堀川通四条下る四条堀川町二六七番地

控訴人

八木漁網株式会社

右代表者代表取締役

八木幸男

右訴訟代理人弁護士

平野静雄

右輔佐人弁理士

志村正和

東京都葛飾区白鳥四丁目一七番三〇号

被控訴人

共立金属株式会社

右代表者代表取締役

下田忠重

長野県埴科郡戸倉町大字戸倉三〇五五番地

被控訴人

株式会社八光エンジニアリング

右代表者代表取締役

坂原良一

神戸市兵庫区塚本通六丁目一番二五号

被控訴人

株式会社アケサワ

右代表者代表取締役

明沢晴光

高知市上町二丁目九番三五号

被控訴人

株式会社伊與木漁網店

右代表者代表取締役

伊與木栄一

千葉市稲毛区稲毛東三丁目八番二二号

被控訴人

有限会社佐藤金属工業

右代表者代表取締役

佐藤忠作

三重県四日市市富田二丁目七-三〇

被控訴人

山本敏彦

三重県四日市市富田一色町二-一一

被控訴人

山本君子

右七名訴訟代理人弁護士

田島弘

右輔佐人弁理士

竹内裕

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人に対し、

(一) 被控訴人株式会社八光エンジニアリング、同株式会社アケサワ、同山本敏彦及び同山本君子は、連帯して金五〇八万円及びこれに対する昭和六一年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二) 被控訴人株式会社八光エンジニアリング、同株式会社アケサワ、同共立金属株式会社、同山本敏彦及び同山本君子は、連帯して金三〇五三万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(三) 被控訴人株式会社八光エンジニアリング、同株式会社アケサワ及び同伊與木漁網店は、連帯して金一〇八九万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(四) 被控訴人株式会社八光エンジニアリング、同株式会社アケサワ及び同有限会社佐藤金属工業は、連帯して金一〇八九万円及びこれに対する平成三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  原判決一二頁八行の次に、行を改めて、次のとおり附加する。

「原判決は、本件発明の『接合及び離遠』について限定的な解釈をしている。しかしながら、本件特許の無効審判請求事件の審決に対する東京高等裁判所平成四年(行ケ)第一五六号審決取消請求事件の判決(甲第一五号証)の述べるとおり、本件発明の半環状溝8を形成する四つの部材である上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7の形状・構造は、要するに、これら四つの部材の各対向面が完全に接合した状態において、各部材の接合面に形成された半環状溝が一つの完成環孔鋳型を形成するものであれば足りるのであり、上型、下型との名称によって何らその位置関係が限定されるものではない。そして、前記の四つの部材の作動についてみると、半環状溝を有する四つの部材が接合することにより、一つの完成環孔鋳型を形成し、鎖製造後はこれを解放しうるように作動可能であれば足りるのであり、本件発明の特許請求の範囲の記載中にその作動方向を限定する趣旨の記載を見いだすことはできないし、本件発明の技術内容に照らしてみても、作動方向を限定することはできない。

そうすると、仮に、イ号装置の鋳型構成部材の運動が接合面を接して左右方向へ行う摺動往復運動のみであるとしても、この運動も本件発明の鋳型の『「接合及び離遠』の概念に入ることは明らかである。」

2  原判決一五頁九行の次に、行を改めて、次のとおり附加する。

「しかも、鋳型構成部材の数が異なり、その結果鋳型構成部材の接合面に形成される凹溝の形状が異なっても、イ号装置のリング成型用キャビティは本件発明の完成環孔鋳型に相当するものであるから、イ号装置は、本件発明の鋳型構成部材が四つであるものを、その鋳型構成部材の数を六つにし、かつ、その当然の結果として鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝が前記の形状になったというだけのことであり、鋳型構成部材について右構成をとったからといって、本件発明と異なる作用効果を奏するものではない。」

二  被控訴人らの主張

1  原判決二七頁三行の次に、行を改めて、次のとおり附加する。

「控訴人は、本件発明の特許請求の範囲の記載中に鋳型構成部材の作動方向を限定する趣旨の記載を見いだすことはできないし、本件発明の技術内容に照らしてみても、作動方向を限定することはできない旨主張する。

しかし、本件発明において、『接合』とは、部材が環状溝を形成する位置でつぎあわされた状態をいい、『離遠』とは、部材と部材の間が『開き、離れ、遠ざかった』状態を指すものである。そして、本件明細書及び図面中には、本件発明における『離遠』が、接合している部材の接合面において摺動し、ずれることを指すと認めるに足る記載はない。

かえって、本件発明では、上型あご部材4、5及び下型あご部材6、7とが完全接合状態にあるとき、半環状溝8を有する四つのあご部材により単一の完成環孔鋳型を形成するようにし、この鋳型により鎖環を鋳造するものであるところ、鎖環を鋳造した後に鋳型から鎖環を取り出す場合を考えると、上型2と下型3の接合面が『開き、離れ、遠ざかる』ことによれば鎖環を取り出すことができるが、上型2と下型3の接合面において摺動し、ずれることによっては鋳型を開くことができないことは明らかである。

そして、一個の特許請求の範囲の中で使用されている文言は、特段の事情のない限り同じ意味を有しているものと解されるから、上型あご部材4、5の『離遠』及び下型あご部材6、7の『離遠』についても、接合面の間が『開き、離れ、遠ざかった』状態は含まれるが、接合面において摺動し、ずれた状態は含まないと解すべきである。」

2  原判決二七頁九行の次に、行を改めて、次のとおり附加する。

「すなわち、この環状溝(凹溝)の形状の相違は、前記鋳型(金型)の数の相違に関連するものではあるが、単に数の相違に関連した形状の相違にとどまるものではなく、鋳造された鎖環(リング)を鋳型機構から取り出す取出機構との関連において、作用効果を異にするものである.すなわち、本件発明においては、突き落し棒で鋳造された鎖環を突き落し、受け台で受けるようになっているのに対し、イ号装置においては、前記構成 gで指摘したように、鋳造されたリングをリング後型7、7′で保持しつつリング前上下型8、8′、9、9′の解放のみにより、リングの前半部分を露出させて把持機構で直接把持して金型から取り出しうるようにしてあるのであって、両者の環状溝(凹溝)の形状の相違は、作用効果の差異をもたらすものであるから、両者の構成を同一とみることはできない。」

第三  証拠関係

原審及び当審記録の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり附加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

原判決四八頁末行の次に、行を改めて、次のとおり附加する。

「(七) 控訴人は、本件発明における『接合及び離遠』の意味について、要するに、半環状溝を有する四つの部材が接合することにより、完成環孔鋳型を構成し、鎖製造後はこれを解放し得るように作動可能であれば足りるのであり、本件発明の特許請求の範囲の記載中にその作動方向を限定する趣旨の記載を見いだすことはできないし、本件発明の技術内容に照らしてみても、作動方向を限定することはできない旨主張し、本件特許の無効審判請求事件の審決に対する東京高等裁判所平成四年(行ケ)第一五六号審決取消請求事件の判決(甲第一五号証)の判断を援用する。

しかし、本件発明とイ号装置とを比較する場合に問題とすべきは、本件発明における部材の『離遠』という概念に、イ号装置のように部材の接合面において摺動し、ずれるという作動が含まれるか否かである。そして、本件発明においては、上型2と下型3との『離遠』には、上型2と下型3との接合面の間が、本件公報の図面第1図に則していうと、上型2の下面と下型3の上面が接合する水平の面に対して垂直方向に、『開き、離れ、遠ざかった』状態は含まれるが、上型2と下型3がその接合面において摺動しずれた状態は含まれず、また、上型2を構成する上型あご部材4、5の『離遠』及び下型3を構成する下型あご部材6、7の『離遠』についても、接合面において摺動し、ずれる状態は含まないもの、すなわち、上型あご部材4と5、下型あご部材6と7とは、その接合している面を摺動する方向(本件公報の図面第1図に則していうと、上型あご部材4と5が接合する垂直の面、下型あご部材6と7が接合する垂直の面に、それぞれ沿った方向)ではなく、互いにその面を対向させたまま遠ざかるものと解すべきであることは、前記のとおりである。

本件公報の発明の詳細な説明中には、下あご部材7の作動に関して「摺動」という言葉が用いられている箇所がある(甲第二号証6欄一五行)が、ここにおける下あご部材7の「摺動」とは、「次いで、下型3が下方へ退避する。この場合一方の下あご部材6は鉛直下方に退避するのに対し、他方の下あご部材7は上下動台10上にあつて下方に退避すると共に前記下あご部材6に対して離遠する関係に摺動し、実質上、斜め下方に退避することになる」(同号証6欄一一~一六行)との記載から明らかなとおり、下型3を構成する下型あご部材6、7が一体として鉛直下方に退避し、上型2との接合が解かれた後に、下型あご部材7が同6に対してその面を対向させたまま遠ざかる関係に上下動台10上を摺動することを述べているのであるから、イ号装置のように鋳型を構成する部材が接合面において摺動し、ずれるという作動と同一の作動をすることを意味するものとは認められない。

控訴人が援用する審決取消訴訟の判決において、本件発明における『接合及び離遠』の作動と、この審決において引用例とされた特公昭四〇-一四三二六号公報に記載された発明における四つの部材の『閉鎖及び開放』の作動とに差異があるとすることはできないと判断されたことは、控訴人主張のとおりであるが、同公報(乙第四号証)に記載された発明における四つの部材の『閉鎖及び開放』の作動についても、鋳型を構成する各部材が接合面において接したまま摺動し、ずれる作動を含むものとは認められないことは、同公報の記載から明らかであるから、本件発明の『接合及び離遠』の構成が、同公報に記載された発明の『閉鎖及び開放』の構成と同一であるとすることと、本件発明とイ号装置の構成が同一でないとすることとは矛盾するものではない。

(八) 控訴人は、本件発明とイ号装置を比較した場合、鋳型を構成する部材の数が、本件発明では四つであるのに対し、イ号装置では六つであること、鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝の形状が、本件発明ではそれぞれ半円形であるのに対し、イ号装置では後型が半円形、前上型及び前下型がそれぞれ四分の一円形である点で差異があるにすぎず、右差異は両者の同一性に何ら影響を及ぼすものではない旨主張する。

しかし、右鋳型を構成する部材の数の相違、この数の相違に基づく各部材の作動方向の相違及び鋳型構成部材の接合面に形成された凹溝の形状の相違は、以下のとおり、本件発明に係る連結鋳鎖製造装置においての連結鋳鎖の製造方法・工程の差異に関連し、作用効果の面で差異をもたらすものであるから、両者の同一性に影響を及ぼすものである。

すなわち、本件発明は、上型2を構成する上型あご部材4、5と下型3を構成する下型あご部材6、7の四つの部材により、これらが完全接合状態にあるとき、単一の完成環孔鋳型を形成し、これにより鎖環を鋳造するものであり、上型あご部材4と5、下型あご部材6と7とは、その接合していた面を摺動する方向ではなく、互いにその面を対向させたまま遠ざかる方向に作動するものであるから、鎖環の鋳造後、鎖環を取り出す場合、上型2は上型あご部材4と5を一体として、また、下型3は下型あご部材6と7とを一体として、その接合していた面を対向させたまま遠ざかる方向に離遠させなければならない。すなわち、上型あご部材4と5を、あるいは、下型あご部材6と7を、それぞれ別個に、両者が接合していた面を摺動する方向に作動させることはできないから、上型あご部材4と下型あご部材6とで鎖環を保持しつつ、上型あご部材5と下型あご部材7とを退避させて、鎖環の半分だけを鋳型から露出させることはできない。したがって、鎖環を鋳型から取り出す手段も、例えば、本件公報の実施例に示されているように、下型が退避し始めた時点で、鋳造された鎖環を突き落し棒等で突き落とし、送り機構の水平溝の下辺に面一にある受け台18が鎖環を受け、これを鎖環保持部材が収納して鋳型から取り出すという手段をとることになる(甲第二号証6欄一六~二三行)。これに対し、イ号装置は、鋳造されたリングをリング後型7、7′で保持しつつ、まず、リング前上型8、8′を左右へ摺動させて前上型を解放し、鋳造されたリングの四半分を露出させ、その後、リング前下型9、9′を左右へ摺動させて前下型を解放し、リング前半部分を露出させて把持機構で直接把持して金型から取り出しうるのである(原判決別紙目録一、三作用の説明、同添付第7図、第20図)。

このように、鋳型を構成する部材の数の相違、この数の相違に基づく各部材の作動方向の相違及びこれに伴う環状溝(凹溝)の形状の相違は、鋳造された鎖環(リング)を鋳型(金型)から取り出す作用の相違に結びつくものであって、その効果を異にするものといえるから、両者の構成を同一とみることはできない。」

二  以上によれば、控訴人の各請求をいずれも理由がないものとして棄却した原判決の判断は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例